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NOTARの仕組み【アンチトルクシステム】

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ヘリコプターのアンチトルクシステムの一つである「NOTAR」をご存知でしょうか。

NOTARは「Non Tail Rotor」の意味でアメリカのMDヘリコプターズ(開発当時は「ヒューズ・ヘリコプター」)が1975年に開発したアンチトルクシステムです。

NOTARを採用しているヘリコプターには、シングルローターのヘリコプターに必要なテイルローターが文字通りありません。

テールローターを装備することなく、どのようにしてメインローターによるトルクを打ち消しているのでしょうか?

今回の記事ではNOTARの仕組みやNOTARを理解するために必要な空力について解説していきます。

目次

NOTARを採用したヘリコプター

現在運用されているNOTARのヘリコプターの機種は3つあり、いずれもMDヘリコプターズの製品です。

MD900は日本においては主にHEMS(Helicopter Emergency Medical Service)に用いられています。

この機体を採用することで、機体後方から患者を乗せたストレッチャーを積み込む際に、テールローターに衝突するリスクをなくすことができます。

日本で見ることができるのは残念ながらMD902のみです。

NOTARを理解するための空力

NOTARの仕組みについて理解するためには、2つの空力現象を理解しておく必要があります。

それは「コアンダ効果」と「マグヌス効果」です。

パイロットであれば一度は聞いたことがると思いますが、改めてその現象について確認していきましょう。

コアンダ効果

コアンダ効果とは、噴流(空気や水)が直線的な経路をとるのではなく、壁面に引き寄せられたり曲がった物体の表面に沿って流れる現象のことです。

また噴流の周りの流体も巻き込む性質もあります。

これはルーマニアの発明家であるアンリ・コアンダがジェットエンジンの実験の中で発見したものとされており、それにちなんで「コアンダ効果」と名付けられています。

よくある実験動画としては流れている水道水にスプーンを近づけると、スプーンの形状に沿って水が流れていきます。

マグヌス効果

出典:Free Online Private pilot School

マグヌス効果効果とは、流体の中を回転しながら進む物体がその進行方向に対して垂直の力が働く現象を言います。

例えば上の図では、反時計回りに回転する球体が右から左に流れる流体の中にいるものです。

球体が反時計回りに回転しながら右に進んでいると考えてもらってもいいと思います。

先述した通り、コアンダ効果によって流体は球体の形状に沿って流れています。

球体の上面では、回転方向と流体の向きが同じなので流体の速度は加速されます。

逆に球体の下面では、回転の方向と流体の向きが逆になるため流体の速度は減速します。

これにより球体上面では静圧が減り下面では静圧が増えます。(ベルヌーイの定理)

この圧力の差が球体を上に持ち上げようとする力を発生させます。

野球でピッチャーの投げる変化球が曲がるのもマグヌス効果によるものです。

NOTARの仕組み

NOTARはどのようにして推力を発生させているのでしょうか?

MDヘリコプターズの機体はいずれもメインローターが反時計回りに回転するので、テールの推力は右に出す必要があります。

NOTARのヘリコプターには通常テールローターが装備される位置に可動式のスラスターが装備されています。

このスラスターの角度はパイロットのラダーペダルの操作によって変わります。

このノズルから空気を出すことにより推力を発生させています。

そしてこの空気はどこからきているかと言うと、MD902の場合胴体の後方上部にインテークがあります。

MD 902 Explorer NOTAR® Anti-Torque System
出典:MD helicopters Techical Discription

取り入れられた空気は可変ピッチのブレードファン(回転数は一定)によって低圧で大量の空気流が生成され、その空気全体の1/3はテールブーム後方のスラスターに送られます。

そして2/3の空気はテールブームの右側面にある2箇所の隙間に供給されます。

この空気は内側からテールブームの形状に沿うように噴出されテールブーに沿って流れるダウンウォッシュ(コアンダ効果)の境界層剥離を防止し、右側の流速を速くすることでマグナス効果により右への推力を発生させます。

この推力はホバリングに必要なアンチトルクの最大60%を生み出すことできます。

NOTARアンチトルクシステム
出典:Helicopter Flying Handbook

したがって、最もアンチトルクを必要とするホバリング時においてはアンチトルクの大半をダウンウォッシュを受けたテールブームで生成していることになります。

後方のスラスターは主に方向制御に用いられるようなイメージです。

また、巡航中(対気速度約60kt以上)のアンチトルクに関しては2つの大きなバーティカル・スタビライザーが効果を発揮します。

紹介したMD520・MD600・MD902はいずれも2つの大きなバーティカル・スタビライザーを装備しています。

このバーティカル・スタビライザーは可変式でパイロットのラダーペダルの操作に応じて角度が変わります。

NOTARのメリット

NOTARを採用することでどのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。

テールローターに起因する事故の低減

最大のメリットと言えるのは、やはり「テールローター」という危険因子を無視することができると言うことだと思います。

ヘリコプターのテールローターは露出しており、しかも人間の手が届くような低い位置にある場合が多いです。

特にHEMS(Helicopter Emergency Medical Servise)の現場では、患者をテールローターのある機体後方からヘリコプターに乗せる場合が多くテールローターは脅威となっています。

その脅威がなくなると現場の人間のストレスはかなり軽減されると思います。

異物による損傷に強い

NOTARのヘリコプターはテールローターがなく、あるのはスラスターのみです。

ヘリコプターの外部の構成部品が少ければ少ないほど、異物による損傷の可能性を低減することができます。

騒音の低減

MDヘリコプターズによりますと、MD902では同等のヘリコプターよりも最大で50%騒音を低減できるそうです。

ヘリコプターである以上うるさいこと変わりはありませんが、少しでも騒音を少なくできれば周辺の地域住民の理解も得られやすくなると思います。

快適性の向上

通常のテールローターを有するヘリコプターは、テールローターに向かって伸びる長いドライブシャフトやテールローターギアボックスを介してテールローターを回しています。

これらの構成部品をなくすことができるので、機体の振動が減り快適性が向上することで、パイロットや乗員乗客の疲労の低減につながります。

参考

MD Helicopters Technical Discription MD902 EXPLORER

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